かぼ様からいただいた執事野分のSSです。




執事野分:番外編

「弘樹様、お茶をお持ちいたしました」
「ん、ああ」
「? 何をそんな難しい顔をしていらっしゃるのですか?」

野分は慣れた手つきで、ティーカップに紅茶を注ぐと、弘樹の傍らに置いた。

「あぁ秋彦が婚約したらしいんで、祝いの手紙を書いていたんだが、いったい何と書いたらいいのか、さっぱりわからん。こういったモノは苦手だ」
「秋彦様、ご婚約でいらっしゃいますか。それはおめでたいことでございますね」
「そうなんだが、相手の方がいったいどこの誰なのか一切解らないんだ。年下ということはこの前の夜会の時に聞いたんだがな」
「左様でございますか、きっとお可愛らしい方なのでしょう」
「今度うちに連れてくると言っていたから、その時はよろしく頼む」
「はい、かしこまりました。ところで弘樹様」
「何だ」
「手紙というのは相手の事を思いながら書くものです。と、いうことは今、弘樹様は秋彦様の事を思ってらっしゃるということになりますね」
「それがどうした」
「他の男の事を考えているあなたを、俺が黙って見ていると思いますか?」

野分は皮肉めいた笑みを浮かべ、弘樹の顔を横から覗きこんだ。
あまりに突然のことに、思わず声がうわずってしまう。

「!? の、野分?」
「しかもそんなに考え込んで・・・非常に面白くないですね」
「え、えっ、ちょっ待て、早まるな」
「早まるな? はっ あなた今何を想像されたのですか?」
「えっ、あっ・・な、何でもない」
「何でもないことはないでしょう。おっしゃって下さい。でないと・・・あなたが今想像したことより、もっとひどい事をしてしまうかもしれませんよ」

弘樹はまずいと思った。
こうなった野分はもう何を言っても、聞き入れない。
弘樹は恥ずかしさをこらえて、先ほど思った事を口にした。

「お、お前がまた手袋を外すんじゃないかと思って・・・」

そう口にしたとたん、野分ははめていた手袋をおもむろに外し、テーブルの上に置いた。
そしてそのまま身を屈め、弘樹の首筋に顔を近づける。

「野分・・・」

今日まで野分によって、与え続けられてきた快感を覚えている身体が、勝手に反応してしまう。
弘樹は恥ずかしさに目をギュッと瞑った。
しかし・・・いつまでたっても思っていたような刺激が訪れない。
不思議に思いそっと目を開けると、目の前で野分が自分をじっと見つめていた。

「ふふっ、弘樹様はやはり可愛い。俺にキスをされると思ったのでしょう?」
「そ、そんなことない!・・・くそっ お前、最近生意気だぞ」
「弘樹様限定の生意気な俺ですよ。貴重でしょう、こんな姿他の誰も知りません」
「お、俺だって知りたくなかった」

頬を赤く染めさせて、上目づかいで野分を睨みつける。
恥ずかしさからなのか、瞳は薄く濡れていた。

「本当にあなたという人は・・・」
「な、なんだよ」
「それ、無意識にやってるんですか? 参りましたね」

野分はため息を一つ吐くと、弘樹の耳をペロッと舐め、ふぅと息を吹きかけ囁いた。


「俺はあなたを泣かせたくて仕方がない。泣かせるのが楽しくてしょうがないんです。もっと泣いていただいてもよろしいですか?」

弘樹の身体が一瞬にして固まった。

「ば、馬鹿を言うな! 全くお前というやつは、主人に向かってなんて口を聞くんだ」
「冗談ですよ。さぁ早く秋彦様への手紙を書いてしまって下さい。もうすぐお茶の先生がお見えになります」
「・・・・・・嫌な奴・・・・」
「何かおっしゃいましたか?」
「何でもない」

弘樹は机に向きなおり、手紙に集中しはじめる。
続きを書こうとペンを取った右手を、野分はおもむろに掴んだ。
そのまま身体を自分の方に向けると、顎を掴み、強引に唇を重ねる。
野分の舌が弘樹の口の中で、生き物のように蠢いた。
無理やり上を向かされているのと、息をもつかせない熱いキスで、野分の唾液が口の中に溢れてくる。
もうこれ以上は息が続かないと思ったその時、唇に触れていたものがフッと軽くなり、おまけと言わんばかりに鼻先を小さく舐められた。

「泣いてもらうのは夜にいたしましょう。その方が楽しい」

そう言って手袋をはめると、野分は嬉しそうにティーセットを持って部屋を出て行った。